景表法規制はBtoB取引にも及ぶの?
消費者保護法のおよぶ範囲を知りたい
では景表法はBtoB取引にも適用されるのか、疑問になりますね。数多くの事件を伝えてきたエステ市場情報誌「ESTETICa BELLEZZa」の知見からお届けします。
景表法の歴史とは?
「景表法」が制定されたきっかけは、昭和30年に起きた「ニセ牛缶事件」だと言われています。“牛”のイラストが書かれた缶詰の大和煮の原材料が“鯨肉”や“馬肉”だったことが判明し大騒動となりました。ニセ牛缶を製造していた事業者は、非常に安い価格で販売していたため、刑法の詐欺罪に適用されませんでした。ニセ牛缶が一般消費者に健康被害をもたらすような危険な商品でもなかったので食品衛生法にも抵触しませんでした。事業者たちは、まさに法の網をくぐり社会的責任をとわれることもありませんでした。しかし、一般消費者の批判の声は非常に高まっていきました。その経過で昭和38年に「景表法」が制定されたのです。
景表法の目的は何?
以上のように「景表法」は一般消費者を守るためにできた法律で、消費者庁には法でさだめられた「表示基準」が守られているかどうかを監視し、取り締まる権限が与えられているのです。
「景表法」については「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする」と、このように定義されています。
BtoB商品資料の表示は景表法の対象?
では、一般消費者向けの広告しか景表法の対象とならないのでしょうか? BtoBの卸業者が小売店向けに作成する商品資料は対象にならないのでしょうか?
紐解いていくと、公正取引委員会のホームページで閲覧できる「平成20年1月23日付事務総長定例会見記録」の議事録が参考資料としてあります。
<議事録の引用>
(問)
一般論として伺いますが、メーカーから卸、つまりBtoB取引における表示について、景品表示法を適用することはできますか。
(事務総長)
景品表示法は不当表示を禁止しておりますが、その不当表示の定義が一般消費者に誤認されるおそれのある表示ということになっておりますので、御指摘の表示がBtoB取引の段階でとどまっていて、消費者の目に触れないということになりますと、なかなか景品表示法の問題にはなりにくいという感じがしております。
公正取引委員会「平成20年1月23日付事務総長定例会見記録」議事録
(URL: https://www.jftc.go.jp/houdou/teirei/h20/01_03/kaikenkiroku080123.html)
BtoB取引は景表法の取締対象外
つまり公正取引委員会の見解は、BtoBの取引だけで一般消費者の目に触れない状態の表現は景表法には抵触しにくいということになります。景表法の行政処分の対象となる「優良誤認」や「有利誤認」はBtoB取引には敷衍されにくいという解釈が行政ではおこなわれているのが実際のようです。
もっとも起こり得る取締ケース
具体的には、たとえば小売店が卸業者の作成した小売店向けの商品資料を見て仕入れをおこない、小売店は消費者向けにWEBで商品の広告を打った。ところが後日、商品の詳細仕様が商品資料の表示と異なって劣っていたことがわかり、小売店は消費者に対し広告で「優良誤認」させる結果となった。間が悪いことに小売店が誤解のもとに作成したWEB広告が消費者庁景表法の取締対象になってしまった。小売店にはもともと消費者を欺く意図はなかったので「優良誤認」は卸業者が作成した商品資料の側にあるはずだと考えて消費者庁に自らは否がないことを訴えるが、消費者庁は取締を取り下げることはなく、卸目的の商品資料の表示をもとに卸業者を景表法で取り締まることも、おそらくしないということになります。法と行政はあくまでも消費者保護が目的で小売店保護は念頭にないからです。
小売店保護は卸業者の責務
このようなケースが起きた場合は、景表法で取り締まられた小売店が卸業者に苦情を言って示談和解金を得るか、折り合わなければ自力で民事訴訟して納得する結末に運ぶしかありません。
こうなると卸業者のやりたい放題のような構図もありえます。BtoBでは卸業者は取締の対象にならないからです。とはいえ、現実的には目先の虚実告知や誇大告知で仕入れさせて大事な小売店を犠牲にするような商品資料をつくってしまうのでは卸先小売店を失い、卸業者にとっても利益機会を毀損しメリットがないことは、あまりにもあきらかですね。