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広告の薬機法違反と景表法違反

薬機法違反と景表法違反!景表法のほうが怖い!?

かつて広告の表現をめぐり「薬事法違反」という言葉がメーカーから恐れられてきました。薬事法が広告表現を規制するのは同法のもつ役割のひとつです。ところが消費者庁ができ、広告表現については「不当景品類及び不当表示防止法(以下景表法)」が注目されるようになるのと引き換えに薬事法の違法摘発事件が少なくなり、「薬事法」は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と名称を変えました。背景に何があるのか、深層底流を深堀りしてみたいと思います。数多くの事件を伝えてきたエステ市場情報誌「ESTETICa BELLEZZa」の知見からお届けします。

江戸時代から現代へ薬機法の歴史

「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下薬機法)」の由来は江戸時代にまでさかのぼります。1722年に江戸幕府は和薬種改会所という機関を設置しました。目的は、当時の薬である和薬種の品質管理のための鑑定をおこなうためです。同所が設置されたことで、薬の流通には効果や品質の検査を受けて検印(焼印や紙札)を得る必要がでてきたのです。この検査には「改料」として売主と買主の両方から金銭を幕府が徴収をしていました。薬種問屋や薬種屋などの薬種業者が薬の効果について知識を取得したこと、薬の品質が向上したことを理由に同所設置から16年後の1738年にこの制度は廃止されました。「薬を取り扱っている業者からの反感が強かったために廃止された」と記載されている歴史書もあります。

明治時代には文明開化の影響を受けて西洋医学が国内で普及、それにともなって現代の薬機法の土台がつくられました。昭和初期の1943年に旧々薬事法が制定されました。記憶に新しい2001年の法改正では、消費者への情報開示を目的とした化粧品の全成分表示がなされることで厚労省の承認制度が廃止されました。同時に化粧品種別許可基準も廃止され、配合禁止成分のリストと防腐剤などの特定成分の配合可能成分のリストを掲載した化粧品基準が制定されました。2014年には現行の薬機法になりました。

医薬品等の広告表現とは

最初に紹介するのが薬機法第十章「医薬品等の広告」の第六十六条(誇大広告等)です。

(誇大広告等)
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。

「承認を要する医薬品等」についての効能効果等の表現の範囲としては、承認を受けた効能効果等の範囲をこえず、また承認を受けた効能効果等の一部のみを特に強調し特定疾病に専門に用いられる医薬品又は医療機器以外の医薬品又は医療機器について特定疾病に専門に用いられるものであるかの如き誤認を与える表現はしないものとされます。
「承認を要しない医薬品及び医療機器」についての効能効果等の表現の範囲は、医学薬学上認められている範囲をこえないものとされます。
「化粧品」で表現可能な効能の範囲は厚労省通知(昭和36年2月8日薬発第44号)で以下のようにさだめられています。

(1)頭皮、毛髪を清浄にする。
(2)香りにより毛髪、頭皮の不快臭を抑える。
(3)頭皮、毛髪をすこやかに保つ。
(4)毛髪にはり、こしを与える。
(5)頭皮、毛髪にうるおいを与える。
(6)頭皮、毛髪のうるおいを保つ。
(7)毛髪をしなやかにする。
(8)クシどおりをよくする。
(9)毛髪のつやを保つ。
(10)毛髪につやを与える。
(11)フケ、カユミがとれる。
(12)フケ、カユミを抑える。
(13)毛髪の水分、油分を補い保つ。
(14)裂毛、切毛、枝毛を防ぐ。
(15)髪型を整え、保持する。
(16)毛髪の帯電を防止する。
(17)(汚れをおとすことにより)皮膚を清浄にする。
(18)(洗浄により)ニキビ、アセモを防ぐ(洗顔料)。
(19)肌を整える。
(20)肌のキメを整える。
(21)皮膚をすこやかに保つ。
(22)肌荒れを防ぐ。
(23)肌をひきしめる。
(24)皮膚にうるおいを与える。
(25)皮膚の水分、油分を補い保つ。
(26)皮膚の柔軟性を保つ。
(27)皮膚を保護する。
(28)皮膚の乾燥を防ぐ。
(29)肌を柔らげる。
(30)肌にはりを与える。
(31)肌にツヤを与える。
(32)肌を滑らかにする。
(33)ひげを剃りやすくする。
(34)ひげそり後の肌を整える。
(35)あせもを防ぐ(打粉)。
(36)日やけを防ぐ。
(37)日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ。
(38)芳香を与える。
(39)爪を保護する。
(40)爪をすこやかに保つ。
(41)爪にうるおいを与える。
(42)口唇の荒れを防ぐ。
(43)口唇のキメを整える。
(44)口唇にうるおいを与える。
(45)口唇をすこやかにする。
(46)口唇を保護する。口唇の乾燥を防ぐ。
(47)口唇の乾燥によるカサツキを防ぐ。
(48)口唇を滑らかにする。
(49)ムシ歯を防ぐ(使用時にブラッシングを行う歯みがき類)。
(50)歯を白くする(使用時にブラッシングを行う歯みがき類)。
(51)歯垢を除去する(使用時にブラッシングを行う歯みがき類)。
(52)口中を浄化する(歯みがき類)
(53)口臭を防ぐ(歯みがき類)。
(54)歯のやにを取る(使用時にブラッシングを行う歯みがき類)。
(55)歯石の沈着を防ぐ(使用時にブラッシングを行う歯みがき類)。
(56)乾燥による小ジワを目立たなくする。

(注1)例えば、「補い保つ」は「補う」あるいは「保つ」との効能でも可とする。
(注2)「皮膚」と「肌」の使い分けは可とする。
(注3)( )内は、効能には含めないが、使用形態から考慮して、限定するものである。
(注4)(56)については、日本香粧品学会の「化粧品機能評価ガイドライン」に基づく試験等を行い、その効果を確認した場合に限る。

広告での薬機法取締事案が急減した理由

(医薬品、医薬部外品及び化粧品の製造販売の承認)
第十四条 医薬品、医薬部外品又は厚生労働大臣の指定する成分を含有する化粧品の製造販売をしようとする者は、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。

(販売、授与等の禁止)
第五十五条 同法の規定に触れる医薬品は、販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列してはならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。
2 模造に係る医薬品、同法の認定若しくは同法の登録を受けていない製造所(外国にある製造所に限る。)において製造された医薬品、同法の規定に違反して製造された医薬品又は同法の規定に違反して製造販売をされた医薬品についても、前項と同様とする。

(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)
第六十八条 何人も、同法が規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ同法の承認又は認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
※一部、省略表現あり

あたかも医療効果があるように表現し販売している化粧品、美容機器が未承認医薬品、未承認医療機器の販売とされ取り締まられる際に適用される法律です。人の身体にたいして継続的な変化をあたえる場合は医薬品や医療機器とされるのです。しかし医薬品や医療機器の販売のためには承認を得る必要がありますが、承認なく販売するかぎりそれは未承認医薬品、未承認医療機器の販売とみなされて罰せられるのです。

ところが、ここ数年間、薬機法の違法広告事案、違法販売事案での行政処分が急減しました。違法行為がなくなったのかもしれませんが、そういうわけでもないかもしれません。というのは、広告し販売をおこなうことを規制する強力な法律「景表法」を運用する行政機関消費者庁誕生が背景にあると考えられるからです。景表法の特徴は消費者に対する誇大表現広告で商品の優良誤認をさせた判定を「効果効能を裏付ける合理的証拠」の有無に置きます。すなわち効果効能を広告するなら、その商品で臨床試験等を通じた効果効能が明示できない企業に措置命令を出し課徴金を徴収していくわけです。売上の3%の課徴金というのは取締対象商品によっては1億円を超えるケースもあり、消費増税と法人税減税をセットでおこなうことを日本経団連から約束させられている政府としては別腹的な収入になりうるもので、きわめて魅力的な財源なのです。

医薬品、医療機器の承認を規制する薬機法を運用する厚労省がここで元来どおり広告、販売規制を励行するとどうなるか。企業が「効果効能を裏付ける合理的証拠」を提示するなら、すなわちそれは未承認医薬品、未承認医療機器ではないかと規制をおこなうことになるのです。しかしこうした取締にいくら励んでも百万円程度の科料を得るぐらいで、景表法の措置命令で獲得できる課徴金のようにダイナミックな収入には足元にもおよばない。逆に取締にかかる間接費(人件費等)のほうが多く持ち出しとなる構図なのです。さらに薬機法が怖いという印象を企業に与えて過ぎると景表法のワナ(落とし穴は措置命令)にだれもかからなくなる。それでは財源稼ぎができなくなる。こんなふかーい事情があるのではないでしょうか。

まとめ

広告については、薬機法と景表法の取締のベクトルが180度異なることに従前から違和感を感じている関係者は多いと思います。あちらを立てればこちらが立たずという関係ですね。今が景表法の取締が旬であり、相対的に薬機法取締は静かになったという感じです。多くの企業が措置命令を回避するために、おカネをかけて種々のエビデンス(効果効能を裏付ける合理的証拠)を準備していると聞いています。でもそのエビデンスって、ひょっとして別の局面、すなわちひとたび薬機法での広告規制の機運が復活した場合には、格好の有罪性の証拠を残すことにならないのか? と気になるところでもあります。ただ、もはやわが国は少子高齢化社会の約束された未来が現実となりました。年金受給者だらけの養い扶持のやりくりを考えると、この先100年は措置命令の名の下で、国の荒稼ぎはなくなりそうにありません。